収穫まで約4か月。北海道から沖縄まで栽培可能。
麻は北海道から沖縄まで、つまり亜寒帯から亜熱帯という異なる気候で栽培できる生命力を持っている、と聞くと驚きませんか? やせた土地でもすくすく育ち、農薬や肥料は他の作物よりも少なくてOK。土壌への負荷が抑えられ毎年同じ土地で育てることができるのは、田畑面積の限られた日本においてメリット大です。もうひとつの特長は、生育のスピード。3月に種まきを行うと7月には2~3mまでに成長し、3カ月ほどで収穫ができる点も太古から重宝されてきた理由といえるでしょう。全国どこでも素早く力強く育つ麻は、多種多様な生活用品ができるため、石油と森林の代替資源として期待されています。
衣食住はもちろん、クルマの材料やエネルギー源にも!
01.衣:衣類、インテリアファブリック、産着
吸湿性が高く、肌に触れたときに涼しく感じることから春夏物の衣類に利用されている麻。「近江上布」「宮古上布」など日本各地には上質な麻布の文化が残っています。麻(ヘンプ)はパリッとしたハリのある生地が特長であり、品質表示法上では「指定外繊維」と表記されているのでぜひチェックを。また麻製品を手首・足首に巻いて登山や運動を行うと「疲れにくい」という声があり、肌との親和性が高いとされているので、ストレスの多い現代社会こそ、自然素材の心地よさを身にまとってみたいものです。ちなみに、赤ちゃんに着せる産着には「麻の葉」模様が描かれているのですが、これは麻の生命力と魔除けの力にあやかっているのだそう。日本では誕生の時から麻と深くかかわってきたのです。
02.食:ヘンプシード、ヘンプシードオイル
七味唐辛子にも入っている「麻の実(ヘンプシード)」は、日本でなじみ深い食材です。人間の体内でつくることのできない9種類の「必須アミノ酸」や鉄・銅・亜鉛をたっぷりと含み、「スーパーフード」として紹介されることもあります。
また麻の実を絞ってつくられる「ヘンプシードオイル」は、「リノール酸(オメガ6)」対「アルファリノレイン酸(オメガ3)」の割合が3:1で、WHO(世界保健機構)が推奨する比率にかなり近いオイル。「天然のサプリメント」としてキレイと健康を目指す海外セレブに口コミで広がり、日本でも美容感度の高い人の間でじわじわ人気上昇中です。
03.住:屋根や壁材、断熱材、塗料
麻の優れた特長を生かし、日本の家づくりにも麻が活用されてきました。かやぶき屋根には軽くて断熱性・抗菌性が高い「麻幹」を、漆喰壁には強度を高める「麻スサ(麻の繊維)」を混ぜ込むなど、快適に過ごすための様々な知恵が息づいています。
近年の欧米では、壁材となるヘンプブロックや麻の断熱材、棚やカウンターをつくるヘンプボード、天然木用の麻塗料、麻炭の調湿材など、新たなヘンプ建材が続々登場。木よりも格段に生育の速い麻は、森林を守るエコロジーな自然素材といえますね。
04.その他:海外の自動車、バイオ燃料
1940年代、フォード社では「ヘンププラスチックカー」の研究を進め、ヘンププラスチックの車体とヘンプ燃料で走らせる実験に成功しました。研究はすでに実用化され、ヘンプ繊維と既存のプラスチックを混ぜた混合材料はメルセデスベンツやBMW、アウディなど海外の主要メーカーが車体の内装の一部に使用。ヘンプの部品は軽くて強度が高いため、燃費向上につながっているそうです。
また麻はバイオディーゼル燃料やペレット燃料、エタノールなど多様な燃料を取り出すことができ、栽培の簡易さと生育の速さから、「エネルギー作物」としての産業利用も進んでいきそうです。
「麻は穢れを払う」とされ、神事で重用されています。
弓道の弦、和楽器など、伝統文化・芸能の道具に麻は欠かすことができません。神社でお祓いに使われる祓い串、しめ縄や鈴縄などの神事にも、黄金に輝く精麻が大切に使われてきました。というのも、麻は穢れを祓い清める力をもった特別なものであり、時には神様の依り代と信じられてきたため。横綱の化粧まわしは年3回綱打ちを行いますが、この綱に麻が使われていることからも、神聖な存在として尊ばれてきたことが分かります。ところが国産麻の減少により高価なものになり、神社のしめ縄の多くがビニール製になっているのが現状。生命力や浄化作用から「見えない力」が宿ると信じられてきた麻のよき伝統を継承していきたいものです。
ヘンプ(大麻)の栽培は、戦後の昭和25年、GHQによる大麻取締法による制限や世界的な化学企業との競合により、栽培量が減少していきました。とくに影響したのは「大麻」のもつ負のイメージ。実際、花や葉に含まれる中毒性のある薬理成分(THC)が気になりますが、日本で産業用大麻として品種改良された「トチギシロ」の薬理成分はかなり低く、薬物として利用するには1000本以上もの麻が必要なのだそう。主な産地である栃木県では、今も防護柵なしで栽培されています。麻は使い方次第。誤解を受けがちだからこそ、品種改良と生産者の栽培管理を徹底し、麻文化を守っていることが分かりますね。
ヨーロッパでは1990年代からイギリス、オランダ、ドイツなどで産業利用が解禁され、フランスやスペインでも栽培面積が増えています。紙の原料や断熱材、自動車内装材のニーズが伸びているそう。カナダでは1998年の解禁以来、国ぐるみの取り組みでヘンプ産業が活性化。このように世界ではヘンプ再注目の動きが増えています。