日本の麻とは

 

麻を楽しみ、麻と暮らす。もっと知りたい、日本の麻。


日本の伝統と、古きよき景色を守るために。今知っておきたい、麻(ヘンプ)のお話。

絹や綿と並ぶ天然繊維である「麻」。麻の種類として「リネン(亜麻)」「ジュート(黄麻)」など多くの品種が知られていますが、日本では古来、麻といえば「ヘンプ(大麻)」のことを指していました。

「ヘンプ」は日本全国どこでも生育できる生命力と、茎・葉・実・根まであらゆる部位が“衣食住”に活用できることから、戦前まで日本の暮らしを支えてきました。栽培が制限されている今でも神社の神事や伝統行事には「ヘンプ」が欠かせないため、免許を取得した農家が文化を静かに継承しています。1万年前から栽培されてきた、日本伝統の麻ともいえる「ヘンプ」。この麻に焦点を当て、メリットやデメリット、今後期待される活用法などを専門家に聞いてみました。

教えてくれたのは・・・


「日本麻振興会」理事 安間 信裕さん

5人の麻農家が立ち上げた「日本麻振興会」の理事として、日本各地に伝わる麻の伝統文化・技術を後世に伝え、麻の産業振興に注力。全国の神社仏閣に神麻のしめ縄を奉納する活動も行っています。

 

日本の麻とは


縄文時代から暮らしを支えてきた日本伝統の作物。

■ヘンプ、リネン…麻の種類はいろいろあります。

日本では「麻」は繊維の総称として使われていますが、実は品種が多く、見た目や特性が異なるので海外では植物学上の品種名で呼ばれるのが一般的です。例えば、衣類・ファブリックの品質表示上で「麻」といえば、「リネン(亜麻)」「ラミー(苧麻)」のこと(ヘンプは「指定外繊維」と表記されます)。ほかにも、麻袋に使われる「ジュート(黄麻)」、ロープや紙幣の原料となる「マニラ麻(アバカ)」などがよく知られていますよね。

日本伝統の麻ともいえる「ヘンプ(大麻)」はアサ科の一年草で、3mほどの高さまで成長。茎からとれる繊維は黄金色で、リネンやラミーの布に比べるとコシやハリがあり、抗菌性や吸水率に優れています。また食品や建材、プラスチック、バイオ燃料など、その汎用性の高さは目を見張るほどです。

麻(ヘンプ)の特徴


麻(ヘンプ)は、全ての部位を友好的に活用できる植物で、茎(繊維部分、木質部分)、種、葉、花穂、根といった部位を用いて様々な産業用の用途に活用でき、その数は5万種類をも上回ると言われている。
茎の繊維部分は衣料や紙、断熱材、プラスチックの原料隣、茎の芯部分は家畜の敷料や建築材料として、また麻の種(実)は食品、そして、食用オイル、化粧品オイル、バイオ燃料として、また花穂は医薬品などに利用できる。まさに枯渇性資源に依存しない再生可能な循環型社会の構築に貢献できる植物である。日本に馴染みの素材=麻(ヘンプ)


実は日本で一般的に言われる「麻」には何十種類もあることをご存知でしょうか。リネン(亜麻)、ラミー(苧麻)、ジュート(黄麻)、マニラ麻(アバカ)など、植物の種類がそれぞれ違います。
日本では古来、「麻」といえばヘンプ、大麻、大麻草のことをさします。

■麻は余すところなく利用できる植物です。

麻(ヘンプ)は、茎・葉・種・根まで余すところなく活用できる植物であり、その用途は5万種類以上! なかでも一番活用されているのが「茎」です。茎の皮をはがして研ぎ澄ました繊維は「精麻(せいま)」と呼ばれ、布やロープ、紙、建材、神事用に使われています。皮をはがして残った茎の芯は「麻幹(おがら)」といい、お盆の迎え火や送り火、生け花の材料になっているほか、「麻幹」からつくった「麻炭(あさずみ)」は肥料や除湿剤にも。ちなみに、家の風よけとして背の高い麻を植えることもあったとか。日本人は知恵を尽くして、麻をムダなく使ってきたことが分かります。


麻幹(麻がら、おがら)について
ヘンプの茎を中が空洞になっていますが、拡大すると、表面は繊維部になっており、その繊維部と空洞の間(白っぽいところ)は木質部と言われます。この木質部を乾燥させたものを「おがら(麻幹、麻がら)」といいます。日本ではオガラを伝統的に使用してきました。まず有名なのは世界遺産「白川郷・合掌造り」の茅葺屋根の下地として使用されています。大麻は古来より清浄な植物とされ、悪いものを祓い清めるとともに、燃やすことで清浄な空間を作り出すという意味が込められています。

意外!打ち上げ花火にも! 花火で有名な大曲市は大麻刈だった(秋田県
全国有数の花火競技大会のある大曲市。秋田藩士石井忠行による『伊頭園茶話』に「享保十五年(1730年)に大麻刈を大曲に改めた」と記されています。地名だけでなく、花火の火薬の助燃剤に大麻草の繊維をはがした後の茎(オガラ)を炭化した麻炭が使われています。麻の茎からつくる「麻炭」は、粉末が細かいため爆発力が高く、花火やトンネル工事火薬の助燃材に欠かせない存在。花火大会の“影の立役者”とも言えますが、国産は10%に満たないそうです。

1万年の歴史!? 縄文土器は麻の縄で模様をつけた。
福井県にある「鳥浜遺跡」は、1万2000年ほど前の古い集落遺跡。ここから麻の種や麻の縄、さらに麻縄で模様をつけた縄文土器が出土し、日本の麻文化のルーツは1万年以上前にさかのぼることが判明しました。日本人と麻との付き合いは縄文時代からだと思うと、なかなか感慨深いものがありますよね。

このように太古から戦前まで麻は全国各地の農家で栽培され、すっくと伸びる麻畑の光景は当たり前のものでした。かやぶき屋根、下駄の鼻緒の芯、蒸し器にかける麻布…麻を利用した製品は、暮らしのごく身近にあったといえます。日本人の文化と生活を支えてきた麻の栽培ですが、戦後に栽培規制が行われ、今や麻栽培を行っている農家はわずか40軒弱ほどなのだとか。

日本におけるヘンプの現状と課題

1,世の中に正しい麻の知識が伝わっていない。誤解されている。
ヘンプの有用性がまだまだ社会一般に伝わっていない。知る機会そのものが少ないために”ただただ悪いもの”と思い込んでいる人がまだまだ多い。

2,ヘンプの有用性が実感できない。実物を見たことがない。
ヘンプは、人が快適で健康に暮らしていくためにも有用な素材。食べても美味しく、着ても住んでも心地よく、多大な美容効果がある。ただ、実感(体感)する場がまだまだ少ない。麻の多様な有用性を実感しなければ真の広がりはない。

3,栽培農家が減少している。免許取得が非常に困難。

日本では1万年の麻の歴史がある。戦前は日本全国に麻畑が点在していた。しかし戦後、大麻取締法による栽培規制を受けて、現状はわずか5ヘクタールほど、麻農家は40軒弱まで減ってしまった。日本の伝統品には麻を多く利用する必要がありながらも、その需要を満たせていない。人生をかけて麻栽培を志す農家もいるが、現状では栽培免許を取得するのは非常に困難である。